90%はカスだ。10%はカスではない。そして1%は本当にすばらしいものだ。(クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす)

クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす (ハヤカワ新書juice)

クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす (ハヤカワ新書juice)

ハヤカワ新書juiceの記念すべき第1巻は、今一番インターネットで注目の話題、「クラウドソーシング」です。
ウィキペディア(辞書サービス)、はてなブックマークソーシャルブックマークサービス)、クックパッド(レシピ共有サービス)などクラウドソーシングには数多くの成功例があります。その一方で、心ない人がサービス全体をおかしくしないのかといった疑問も尽きません。

この本では、豊富なクラウドソーシングの実例を紹介しながら、クラウドソーシングによって何が可能となるのか、クラウドソーシングがうまく機能する条件はどういったものなのかを探っていきます。

多くのクラウドソーシングを眺めてみると、ある一定の割合でユーザーの活動が分けられることが分かってきます。
それを端的に表すのが、スタージョンの法則です。

P.317

いわく、どんなものでも(とりわけユーザー生成コンテンツは)九〇パーセントは、一言でいえば、カスである。

もちろん、スタージョンの法則を裏返せば、どんなものでも10%はカスではない。そして、それよりもやや少ないパーセンテージのものは、文句なくすばらしいのだ。

さらに、著者はヤフーのブラッドリー・ホロウィッツが提唱した1対10対89の法則が紹介されます。

P.317

あるサイトを訪れる一〇〇人のうち一人はじっさいに何かを作りだし、一〇人はその人の作品に投票し、あとの八九人はその作品を消費するだけであるというものだ。

著者は、この10%のユーザーに注目します。この10%の活発なユーザーがコミニティ内で投票し、採点し、議論し、サイトの秩序を守ることによって、価値ある1%が発掘されることを助け、他の89%が迷走することを防ぐというのです。

日本で身近なクラウド(群衆)の集まりといえば「2ちゃんねる」でしょう。その2ちゃんねるを例に考えてみるとわかりやすいです。今、2ちゃんねる掲示板をくまなく読んでいるユーザーはほとんどいないでしょう。2ちゃんねる自体の操作性もいいものとは言えません。膨大なコンテンツの中で自分にとって有意義な投稿がどこにあるのかはすぐには分からないでしょう。その一方、2ちゃんねるの記事をまとめた「まとめサイト」は非常に人気があります。さらに、そのまとめサイトの記事が、ソーシャルブックマークで評価されることにより、2ちゃんねるの投稿のうち人気のあるものは多くの人に読まれます。つまり、面白い内容になればなるほど、多くのユーザーの目に触れる構造が成立しているのです。この構造の中で、まとめサイトを作る層、ソーシャルブックマークへブックマークをする層が先述の10%に相当し、価値ある投稿をする1%に匹敵するぐらい大事な役割を担っていると考えられているのです。

著者は、クラウドソーシングのコミュニティには、そうした活動的なユーザーを導いていく「慈悲深い独裁者」の存在も指摘しています。なるほど、リナックスならリーナス・トーヴァルズ。2ちゃんねるならひろゆきRubyならMatz。はてななら近藤社長。彼らの控えめなリーダーシップと信念が、コミュニティの指針となり、クラウドが前向きに進んでいくことにつながっていくという構造が思い浮かびます。もちろん、成功したコミニティの陰に、リーダーシップがクラウドの意向とぶつかり、破綻してしまった多くのコミュニティがあることも忘れてはいけないでしょう。

この本では、その他に、参加者に未来予想の取引をさせる予想市場や、少額金銭貸借のマッチングをするクラウドファンディングなど、大きな機関に頼らず、透明性の高い仕組みを生み出そうとする数々の取り組みが取り上げられ、とても興味深いです。

クラウドそのものを生み出したい人はもちろん、クラウドの一員となって新しい価値を創造したい人にも読んでもらいたい一冊です。